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日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

顎機能障害(顎関節症)の診療ガイドライン 6) 関節内視鏡検査

顎機能障害(顎関節症)の診療ガイドライン

6) 関節内視鏡検査
顎関節腔へ穿刺し,内視鏡を挿入して腔内の状態を直視により検査する方法である.視診のみならずバイオプシーも可能であり,また,関節腔内洗浄や鏡視下手術にも用いられている.
7) 血液検査
血液検査は顎機能障害と類似の症状を呈する疾患(顎関節炎,慢性関節リウマチなど)との鑑別診断が必要な場合に実施する.
8) 心身医学的検査
顎機能障害には心因性の要因が強いものもあるので,心身医学的検査も行う必要がある.検査は既存の質問用紙(YGテスト:社会的適応性,CMIテスト:神経症傾向,MASテスト:不安傾向)を用いて実施するのが一般的である.


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顎機能障害の診断法

1) 病態の診断
顎機能障害の診断にあたっては類似疾患との鑑別が必要である.日本顎関節学会では顎関節症と鑑別すべき顎関節疾患として,発育異常,外傷,炎症,腫瘍,全身性疾患に関連した顎関節異常(痛風,血友病性関節症など)および顎関節強直症などをあげている.さらに,顎関節疾患以外の疾患としても,頭蓋内の腫瘍や動脈瘤,歯および歯周組織の炎症などの歯科疾患のほかに耳鼻科,内科,精神神経科疾患などとの鑑別が必要であるとしている .鑑別診断を的確に行うためには,歯科疾患以外の全身疾患に対しても広く知識や理解を深めなければならないが,通常の顎機能障害患者とは異なる病態を示したり,診断に自信がもてない場合などには,早めに該当すると思われる専門診療科に紹介すべきである.
鑑別診断によって顎機能障害であると判断された場合には,症状が筋の障害によるものか顎関節の障害によるものであるかなどを診断しなければならない.日本顎関節学会の症型分類やAAOPの採用している分類に従って病態の診断を行う.なお,日本顎関節学会では,系統的な除外診断法によって各患者を単独の症型に分類する方法を推奨している が,顎機能障害は複数の症型にまたがるものが多いので,無理に単独症型に分類することの是非については意見が分かれる.

2) 発症・増悪メカニズムの診断
発症メカニズムは顎関節に症状がある患者と筋に症状がある患者で,あるいは同様の症状であっても患者によって異なることがある.発症要因にあげられている各要因のうち,何が原因でまたどのようなメカニズムで発症したかあるいは悪循環となって症状を増悪させているかを診断する.症状の日内変動や日間変動あるいは増悪要因,改善要因などが診断の参 になる.

咬合については特に詳細な検査を行い,どのような咬合異常がどのようなメカニズムで関与しているかを診断する.前述した疼痛誘発テストは咬合異常の関与を推定するのに役立つ.

・ 日内変動,日間変動
症状の強弱が1日のうちで時間帯によって異なることがある.たとえば就寝前に比べて起床時の症状が著しい場合には,睡眠中のブラキシズムやうつ伏せ寝などの不良姿勢が筋の過剰な活動や顎関節への過剰な負荷をもたらしたと えることができる.一方,起床時には症状が軽いが,夕方にかけて症状が増悪する場合には,生活動作のなかでの不良姿勢や,習癖などが増悪要因として えられる.また,日間変動としては,試験や仕事の忙しさなどによって症状が増悪したり,女性では生理の周期に関係することなどがあげられる.

・ 増悪要因と改善要因
症状に変動がある場合,日常生活におけるどのような仕事や動作が症状を増悪させているかあるいは改善するかを医療面接時に聞く.増悪要因としては食事,睡眠,運転,歯の治療,整形外科領域で行われる牽引治療などがあり,改善要因として入浴,睡眠,休養のほか,ガーゼなどを.んでいることなどをあげる患者がいる.いずれも,ブラキシズムやクレンチング習癖および咬合の異常などと関連する顎関節への負荷あるいは筋の過剰活動によって,そのメカニズムを説明できる.


3) 予後の診断
病態や発症メカニズムの診断が行われれば,治療方針が立案される.選択した治療法の術後経過がどの程度であるかを予測する.十分な診断を行わないで対症療法に終始するのではなく,原因除去療法が重視されるべきである.

4) 治療方針の立案
診断に基づいて適切な治療計画を立案する.症状の変化に応じて治療方針の変更もあり得る.

5) 暫定的な診断
早期に診断を確定できないときには,暫定的な診断を行い有効と思われる可逆的な治療を優先させて症状の改善を図る.
スプリントや接着性のレジンを使って咬合状態を一時的に改善して症状の変化をみて,必要に応じて安定的な咬合治療に移行する方法もある.確定的な診断がない状態で,不可逆的な治療を行うのは適切ではない.

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顎機能障害の治療法
1) 顎機能障害治療のアルゴリズム  *<アルゴリズム : 問題を解決するための手順>
顎機能障害の治療は,病態だけでなく発症メカニズムの診断を的確に行い,これに基づいて治療方針をたてて,十分なインフォームドコンセントを得た後に行わなければならない.前述のように,顎機能障害に関しては,根拠に基づいた診断や治療を行うための条件が整っていないのが実状であり,おおよそのコンセンサスが得られている診断法や治療法が何であるかをキャッチして,知識を整理するとともに技術を十分に磨いた後に,患者中心の立場に立って治療を進めていかなければならない.また,補綴領域ではとかく咬合に関心が集まりがちであるが,顎機能障害が多因子の疾患であることを十分に認識してスプリントなどの可逆的な治療から始め,同時に硬食品の制限,口腔習癖や不良姿勢の矯正,マッサージなどのホームケアを行わせる.疼痛などの状態によっては薬物療法も選択肢となるが,対症療法に終始することなく原因除去治療を重視すべきである.また,症例によっては理学療法,心理療法などをそれぞれの専門家との共診で行うことがある.治療の効果が得られない場合は,治療法を再検討したり関連する他科へ紹介する必要がある.
なお,クリッキングの完全消失を目標にすることは困難であるので,疼痛や開口制限のない慢性のクリッキング症例は,リラクセーション指導や習癖指導を中心として積極的な治療を行わないのが原則である.

2) インフォームドコンセント
治療に先立ち,診断結果および最も望ましいと思われる治療方針について十分説明し,納得に基づいた同意を得る.症状に対して不安を抱いていた患者も,説明を受けることによって安心し,それだけで症状に改善傾向がみられることもある.

また,病態の説明を行う場合,必要以上に不安を煽ってはならない.たとえばX線所見の説明などにおいて顎関節の変形などに対して,患者は非常に重大に受けとめることがある.心理的要因の強い患者では特に注意が必要である.さらに,咬合に対して過剰な反応を起こさせないよう注意する.絶えず咬合状態を気にして.かみしめや舌習癖などの新たな習癖を誘発する可能性があるからである.

3) ホームケア
顎機能障害の発症には,口腔習癖や不良姿勢,ストレスなどの要因が深く関与しており,患者自身がこれらの増悪要因を減らさなければ症状は改善しないことが多い.
 かみしめ,頬杖,舌習癖,不良姿勢などの有無を医療面接によって早期に発見し,これをやめさせる.このような動作をやめると症状が改善することを患者が認識すると,認知行動療法としてのホームケアのモチベーションは高まる.規則正しい生活,適度の睡眠や運動を勧めたり,ストレスマネージメントの仕方についてアドバイスをする.
患者への指導法の例として,緊張した姿勢や口腔習癖などの動作が持続するのを防ぐために,普段から「口は軽く閉じ,上下の歯は接触させないでわずかに離し,口元をゆるめて頸や肩をゆったり伸ばす」ことを心がけさせる.また,TPOが許せば鼻歌を歌いながら作業をすることも,緊張を解く良い方法であることなどを助言する.

4) 理学療法
マッサージ,筋訓練,温熱療法,コールドスプレー,バイオフィードバックなどがある.理学療法士による専門的な治療が必要な場合もあるが,通常は歯科医が顎機能障害の治療の一環として実施したり患者指導を行い,ホームケアとして患者に実践させる.
・ 筋マッサージ
一般に,筋の痛みや疲労は筋の過緊張により生ずることが多く,これを改善するために筋マッサージが有効である.顎機能障害患者の訴える頬部や“こめかみ”の疼痛や違和感は,咬筋や側頭筋前部のスパズム(過緊張)によるものが多く,臨床検査では同部の圧痛として認められる.咬筋や側頭筋の緊張を緩和する1つの手段として,筋マッサージが有効であるが,このような例では,無意識の内に歯を.みしめて症状の増悪をまねいていることが多いので,ホームケアの項で述べたように,上下の歯を接触させないで口元の緊張を緩めることを心がけさせる.これらの筋のマッサージは,両手の掌により,側頭部から頬部に向けて,上から下へ撫でるように実施することが重要である.この方法により閉口筋が機械的に伸展される結果,同筋の緊張により接触していた上下の歯も次第に離れ,.みしめが消退することにより閉口筋の緊張が緩和される.筋マッサージは,1日数回,1回につき10数回程度実施するように指導する.

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・ 筋訓練
顎機能障害の病態の1つに顎筋の機能障害によるものがあるが,これを改善する方法に,筋訓練法がある.主なものを以下にあげる
a. 閉口筋弛緩訓練法
閉口筋のスパズムによる疼痛や開口障害が認められる場合,拮抗筋である開口筋の緊張を高めることにより,反射的に閉口筋の緊張を緩和させることを意図した方法である.
軽い閉口状態で掌を頤部の下方にあて,手の力に抗しながら開口し,中等度の開口位をしばらくの間維持させる.こうすることで,開口筋は等尺性収縮状態となり緊張が亢進され,その結果閉口筋は弛緩される.この筋訓練法は1日数回,1回につき約10秒間を1サイクルとして,数回程度実施するように指導する.しかし,開口筋にも筋スパズムが認められる場合は本法の実施は避けなければならない.

b. 開口訓練
閉口筋の障害,特に,拘縮による開口障害が認められる場合に,閉口筋を他動的に伸展させて開口量の増加を図る方法である.
拇指の先を上顎中切歯切縁に,また人差指の先を下顎中切歯切縁にあて,少しずつ力を加えながら上下の歯を離開させる.
この際,下顎が正中線より偏位しないように,指をあてる位置や力の方向に注意する.この訓練は1日数回,1回につき10数回程度実施するように指導する.しかし,本法の実施により著しい疼痛が生じる場合や,顎関節部に障害が認められる例には禁忌である.

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・ 温罨法(温湿布)
顎機能障害の疼痛は急性炎症などとは異なり,むしろ患部を温めることにより疼痛症状の緩和が得られる例が多い.したがって,顎関節や顎筋部の疼痛に対しては,蒸しタオルや加熱した保冷材をホットパックの代わりに用いて,適宜温めるように指示する.また,寒い日の外出を控えさせたり,防寒には十分に注意するよう指導する.
・ バイオフィードバック
筋電計などを用いて筋活動状態をモニタして過剰な活動を抑えたり,動作や姿勢を改善する治療である.上下の歯列を持続的に接触させていることは,顎機能障害の症状の発現や増悪要因となる.患者の閉口筋のEMGを視覚的あるいは聴覚的に患者自身にフィードバックすることで,その行為を自覚させ,中止するように訓練させる.また,バイオフィードバックを咬合検査に利用することもある .
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5) 薬物療法
消炎鎮痛剤,筋弛緩剤,精神安定剤などを症状に応じて投与する.顎機能障害における薬物療法は,本疾患の性質上あくまでも対症療法である.疼痛が著しい場合は十分な検査,診断ができないことが多く,したがって早期に疼痛の軽減を図ることが必要であり,薬物の投与により疼痛症状が改善されると
必要な検査や診断が充分に実施でき,治療の導入が容易になる.
薬物の投与にあたっては,疼痛部位やその性質により,処方が異なってくる.診断のない薬物の乱用は禁物である.

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6) 初期的咬合治療
咬合を改善することで顎関節への負荷や過剰な筋活動の誘発を減らすことができる症例もあるが,咬合異常があると思われる場合でも直ちに不可逆的な咬合治療を行わないのが原則である.咬合治療としては可撤性のスプリントなどの可逆的治療を優先させる.

・ スプリント治療
スタビライゼーションスプリントが最も一般的であり,可逆的咬合治療として位置づけられる.本ガイドラインでは,主としてスタビライゼーションスプリントについて述べる.
一時的な咬合の改善により顎関節への負荷を軽減することが主な目的である.筋活動の協調性を回復させる働きもあるといわれており,また,プラシーボ効果もあるともいわれている.
a. スプリントの咬合採得
通常は筋肉位で行うが,偏位した下顎位を修正するために術者が意図する顎位(治療位)にスプリントの咬合位を定めることもある.

b. スプリントの装着
スプリントの装着時間は患者の発症メカニズムを 慮して決める.ブラキシズムが発症因子であることが多いので,夜間の使用頻度は高い.不安定な咬合異常が日中の過剰な筋活動を惹起する場合や,スプリントを装着しないと食事などの日常動作で疼痛をコントロールするのが難しい場合などには昼夜使用させる.スプリントは歯の締め付けなどの違和感を可及的に少なくし,スプリント装着により新たな習癖などを惹起しないようにする.

c. スプリントの装着期間
症例にもよるが2~3カ月の使用を基本として,後述のスプリント中断プログラムに進み,必要に応じて次の治療に移行する.スプリント装着後は必ずリコールを行い,来院の都度ブラキシズムによる圧痕や摩耗の程度を検査するとともに,咬合状態をチェックして必要に応じてスプリントの咬合調整や新たなレジンの添加などを行う.
調整が不十分なスプリントは症状をさらに悪化させる可能性があるので,調整は綿密に行わなければならない.なお,スプリントを装着しても症状が改善しない場合は,ほかの治療法を選択するか,関連すると思われる他科へ紹介する.


・ スプリント中断プログラム
スプリントの装着によって症状の改善がみられたら,3日→ 1週間→ 1カ月と装着をやめさせ,スプリントに依存しなくても,症状の再発がないことを確認する.スプリントを中断しても症状の再発がない場合には,不可逆的咬合治療を行わないで経過を観察する.一方,スプリントの装着を中断すると症状が再発する場合は,再度スプリントを装着させるかまたは治療法を再検討する.ブラキシズム習癖の著しい患者などでは,ナイトガードとしてスプリントを長期間使用したほうがよいこともある.

・ その他のスプリント
症例によってはリポジショニングスプリント,ピボットスプリントなどを選択するが,これらの使用法は特に注意が必要である.スプリントが不可逆的治療となったり,ピボットスプリントの場合には反対側の顎関節に負荷をもたらす危険性を伴う可能性があることを注意する.

・ 可撤性の咬合装置(金属フレーム付きスプリント)
装着感などの理由で通常のスプリントを日中に装着することが困難である症例や,スプリント治療に引き続いて咬合治療が必要であるが,歯冠修復などの不可逆的咬合治療を希望しない症例に対して,会話や咀嚼などの機能を可及的に妨げない可撤性の咬合装置を装着することがある.薄くて違和感が小さく,また良好な維持を得るために,咬合面に金属あるいは硬質レジンを用いた金属床タイプの咬合装置が適している.



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7) 咬合調整
不可逆的咬合治療は,可逆的治療である可撤性スプリントを装着して経過観察を行い,その必要性を確認してから行うことを原則とする.
咬合調整を行う場合には不可逆的治療であることを十分に認識する必要があり,特に天然歯を削除する場合には慎重に行わなければならない.咬合調整は1~数歯程度の少数の範囲に限定すべきであり,広範囲の歯を大幅に削除して望ましい咬合接触が得られる症例はむしろまれである.

また,咬合調整は削除型の咬合治療であるので,咬合高径はより低いほうへ,ガイドの傾斜はより緩やかなほうへと変化することに留意して適応症を選択すべきである.

また,精神的要因が非常に強い患者で,咬合接触に対して意識が過剰になっている場合には,たとえ患者が希望をしても直ちに咬合調整を行わないほうがよい.このような患者では不快部位をたえず舌で触ったり.みしめを行ったりしていることが多く,新たな咬合の変化は習癖を助長したり神経筋機構の異常な状態をさらに増悪させる可能性が高い.

・ 咬頭嵌合位付近における早期接触の調整
歯列上の一部の歯が過高であるために歯列全体として咬合接触の安定性を欠くような場合,この早期接触歯は咬合調整の対象となる.
咬合紙記録の色の抜け方やタッピング時の歯の振動を触診することで早期接触歯を判定することができる.早期接触歯を咬合調整することにより,末梢からの非生理的な感覚情報が減少して神経筋機構に良い影響を与えることが予想されるとともに,咬頭嵌合位が安定して顎関節への過剰な負荷を減ずることも期待できる.

・ 偏心位での接触異常の調整
偏心位における接触部位の検査は咬合紙や箔の引き抜き試験などで行う.偏心位での接触異常の例と
して,前方運動が後方臼歯で干渉気味に誘導される症例,あるいは側方運動が非作業側臼歯や作業側の
最後方臼歯だけで誘導される症例がある.
しかしガイドの傾斜が緩い症例で,本来誘導すべき部位に咬合接触を回復することで結果として臼歯部の咬頭干渉が消失する場合には,咬合調整よりも添加型の咬合治療が望ましい.
・ 咬合調整の術式
咬合調整は以下の原則に従って行う.
a. 機能咬頭はなるべく削除しないで斜面や窩のほうを削る.
咬合平面や歯列の連続性を乱している場合を除いて機能咬頭の削除は避ける.機能咬頭が低くなるとアンチモンソンとなり,咀嚼効率が低下したり.みしめ時の歯の移動方向に悪影響を及ぼす可能性がある.

b. 天然歯と修復物の接触では修復物のほうを削除する.
c. 偏心位の調整に際して,咬頭嵌合位の接触部位を削除しないように気をつける.
非作業側の調整においては,機能咬頭内斜面同士の接触は咬頭嵌合位における接触部位から遠いほうの部位を削除する .
特に機能咬頭内斜面同士の接触は,非作業側の干渉となりやすい部位である.しかし,その一方で食品の圧搾や.みやすさに深く関係して機能的に重要な咬合小面である ので,調整にあたっては十分に注意しなければならない.非作業側に強い咬合接触があり咬頭干渉のように観察される場合でも,作業側の犬歯部に適切なガイドを付与することによって干渉ではなくなり,逆に削除すべきではない重要な咬合小面となる可能性がある.



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8) 歯冠修復などによる咬合治療
・ 移行的咬合治療
スタビライゼーションスプリントなどを外すと症状が再発するような症例で,なおかつ発症要因として咬合異常が大きく関与していると診断される場合,最終的な咬合治療の前にプロビジョナルな咬合治療として食事や会話の妨げが少ない接着性のスプリントなどを使用することがある.

・ 添加型の咬合治療
支台歯形成を行わないで犬歯部にガイドを付与したり,臼歯にアンレータイプの修復物を接着して咬合支持を回復することで,顎関節症状を改善できた症例も数多くある.本来あるべき形態を回復する添加型の咬合治療は比較的簡便なうえ,小範囲の治療でも大きな効果が得られることもあり,歯冠を形成して修復物を装着する方法に比べて,患者に受け入れられやすい.

・ 歯冠修復などによる咬合改善
1歯程度の歯冠修復による咬合改善から全顎的な補綴治療による咬合の再構成まであるが,治療範囲は患者によって異なる.
不可逆的治療であることを十分に認識して,段階的な咬合治療の計画を立てて慎重に行う.
段階的咬合治療とは,可撤性スプリントに始まって移行的咬合治療(接着性スプリントなど)から咬合再構成にいたる一連の咬合治療術式をいう.

・ 矯正による咬合改善
咬合の再構成を必要とするが,歯冠修復の術式では安定した咬合接触をあたえるのが困難であったり,患者自身が天然歯の削除を望まないという症例もある.このような場合矯正の専門医に治療を依頼することがある.



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9) 外科的治療
顎関節部に病変が認められ,保存的治療により改善しない場合は,外科的治療が対象となることがある.外科的治療にはパンピングマニピュレーション,顎関節鏡視下手術,開放手術などがあり,口腔外科専門医との連携が必要である.しかし,外科的治療の適応症は必ずしも多くはない.

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10) 心身医学的治療
顎機能障害患者に対して,不安を除去するような十分な説明やストレスコントロールおよびリラクセーション指導などは有効なことが多い.
顎関節や咀嚼筋などに明確な障害が認められず,また咬合異常も認められない非定形的な疼痛や全身的な不定愁訴を訴える場合は,心因性の可能性が高い.
このような症例では積極的な治療は避けるべきで,精神心理分野の専門医と連携し慎重に対応する必要がある.

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11) 終診の目安
患者の訴えるすべての症状が完全に消退しなくても,主要な症状が改善し日常生活を支障なく営むことができるようになれば,終診として良いと思われる.
クリッキング症状を完全に消失させることが困難な症例も多く,終診の目安としては,疼痛や開口制限がない状態がおおむね3カ月継続していることである.
 なお,一度終診とした後も症状が再発したり増悪することがあるので,患者に対して日常生活での注意点を指示することが重要であり,また定期的なリコールの必要もある.


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